相続後の固定資産税 / 「所有」と「課税」の決定的な違い

固定資産税を払っていても、登記をしなければ法的な所有者とは認められません。固定資産税の納税義務者と不動産登記の名義人は、まったく別の制度です。納税通知書の名義が変わっても、登記が完了していなければ不動産の法的権利は移転しておらず、売却も担保設定もできないのが原則です。

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固定資産税と登記の決定的な違い

相続が発生した後、固定資産税の納税通知書の宛名が亡くなった方から自分の名前に変わったのを見て、「名義変更が済んだ」と安心してしまう方は少なからずいらっしゃいます。

【二つの制度の根本的な違い】

固定資産税は地方税法に基づき、市区町村が課税する税金です。毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている方を基準に課税されます。一方、不動産登記は不動産登記法に基づき、法務局が管理する制度で、不動産の権利関係を公に示すためのものです。

この二つはまったく異なる法律に基づいており、管轄する役所も異なります。

相続が発生すると、市区町村の税務課は固定資産税を誰に請求するかを決める必要があります。ところが相続登記がされていない場合、登記簿を見ても新しい所有者がわかりません。そこで税務課は独自に相続人を調査し、納税通知書の受取人を届け出る書面を送付します。これが「相続人代表者指定届」や「現所有者申告書」と呼ばれるものです(名称や手続きの詳細は自治体によって異なります)。

重要なのは、これらの手続きはすべて「誰に税金を請求するか」を決めるためだけのものであり、不動産の所有権を移転させるものではないという点です。固定資産税の納税通知書の宛名が自分になっても、登記簿上の名義は亡くなった方のままです。何年払い続けても、登記しない限り登記簿の名義は変わりません。

【義務化に注意】

2024年4月より相続登記が義務化されました。相続開始および所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記しない場合、正当な理由がなければ10万円以下の過料が科される可能性があります。2024年4月1日より前の相続については、2027年3月31日までが経過措置の期限です。


あなたはどのパターン?よくある誤解の3つのケース

固定資産税と登記の混同には、いくつかの典型的なパターンがあります。以下のいずれかに心当たりがあれば、相続登記が未了の可能性があります。まず登記簿謄本を取得して、名義を確認することをお勧めします。

CASE 1

「納税通知書の名義が変わったから大丈夫」と思っているケース

父が亡くなった後、市役所から「相続人代表者指定届」の提出を求められました。長男として自分の名前を記入して提出したところ、固定資産税の納税通知書が自分宛に届くようになり、「これで名義変更は終わった」と思っています。ところが登記簿を確認すると、いまだに父の名義のままです。

この状態では法的には父の不動産のままです。長男が単独で売却することも、担保に入れることも、一般的には認められません。

CASE 2

「ずっと税金を払っているから自分のもの」と思っているケース

祖父の代から相続登記をしないまま、父が固定資産税を払い続けていました。父が亡くなった後は自分が払っています。何十年も払い続けているのだから当然自分のものだと思っていましたが、登記簿を見ると祖父の名義のままです。

複数世代にわたる相続登記が必要になります。年月が経つほど関係者が増え、手続きが複雑化します。お早めのご対応をお勧めします。

CASE 3

「みんなで税金を払っているから共有になっている」と思っているケース

母が亡くなり、子ども3人で固定資産税を3分の1ずつ負担しています。みんなで払っているのだから共有状態になっていると思っていますが、登記はまだ母の名義のままです。

誰か1人が「自分の持分だけ売りたい」と言い出しても、登記がなければ手続きを進めることが難しい場合があります。また、相続人の誰かが亡くなるたびに権利関係はさらに複雑になります。

これらのケースに共通するのは、「税金を払っている=所有権がある」という誤解です。固定資産税の支払いは所有権の証明にはなりません。法的に権利を主張するためには、登記が必要です。


登記を放置するとどうなるか―起こりうる深刻なトラブル

売却も担保設定もできなくなる

不動産を売却するには、売主が登記簿上の所有者であることが実務上の前提条件です。登記が亡くなった方の名義のままでは、固定資産税を払い続けていても売却手続きを進めることは難しいとされています。住宅ローン等の融資においても、登記が完了していない不動産には抵当権が設定できないため、金融機関からの融資を受けられないのが通常の取り扱いです。「売却しようとして初めて気づいた」というケースが多く、その時点で他の相続人が認知症になっていて手続きが止まってしまう、といった問題も現実に起きています。

見知らぬ第三者と共有になってしまうリスク

相続登記をしないまま放置すると、相続人は法定相続分に応じた共有権を持つ状態が続きます。この状態で他の相続人の一人が自分の法定相続分を第三者に売却してしまうと、見知らぬ他人と不動産を共有することになりかねません。たとえ相続人間で「長男が全部相続する」という遺産分割協議が成立していても、登記を完了させなければその合意を第三者に対して主張できなくなる場合があります(民法第899条の2)。第三者への売却と登記を先に済ませられてしまうと、取り返しのつかない事態になりかねません。

世代を重ねるごとに権利関係が複雑化する

相続登記をしないまま次の相続が発生すると、権利関係はどんどん複雑になります。父の不動産を登記しないまま母が亡くなれば、父の相続と母の相続の両方を処理しなければなりません。時間が経って兄弟の誰かが亡くなると、その配偶者や子どもたちも相続人に加わり、関係者が数十人に膨れ上がることもあります。こうなると全員の同意を得ることが事実上困難になるケースも少なくありません。


正しい手続きの進め方―登記と税金、両方を適切に処理する

相続が発生したら、固定資産税の手続きと相続登記の手続きをそれぞれ別々に、かつ両方進める必要があります。

  1. 市区町村への税務対応(固定資産税の手続き)

相続発生後、市区町村の税務課から「相続人代表者指定届」や「現所有者申告書」の提出を求められることがあります。これは固定資産税の請求先を決めるための手続きです。速やかに対応してください。ただしこの届出を提出しても登記は変わりません。代表者として納税したからといって、その方が単独で不動産を相続できるわけでもありません。

  1. 相続人全員で遺産分割協議を行う

誰がどの不動産を相続するかを相続人全員で話し合い、合意をまとめます。合意内容は「遺産分割協議書」に全員の実印で署名・押印します。なお、有効な遺言書がある場合はその内容に従った登記手続きとなります。

  1. 必要書類を収集する

遺産分割協議に基づく登記には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍を含む場合があります)、相続人全員の現在の戸籍謄本・印鑑証明書、不動産を相続する方の住民票、固定資産評価証明書などが必要とされています。必要書類は個別の事情によって異なりますので、専門家へのご確認をお勧めします。

  1. 法務局で相続登記を申請する

ご自身での申請も可能ですが、戸籍の読み方に自信がない、不動産が複数の法務局の管轄にまたがる、相続人の特定が難しいといった場合は、司法書士または弁護士への依頼を検討してください。登記を誤ると修正に手間がかかり、相続人全員の協力が再度必要になることもあります。


まとめ:今すぐ確認・実行すべきこと

固定資産税納付の「相続人代表者指定届」と相続登記は別の制度であり、届出をしたからといって相続登記が不要になるわけではありません。以下のリストを参考に相続登記が完了しているかどうか不安な方は、まず登記簿謄本で現状を確認することをおすすめします。

確認すること

  • 登記簿謄本を取得し、現在の名義人を確認する
  • 固定資産税の納税通知書の納税義務者を確認する
  • 二つが一致していなければ、相続登記が未了の可能性がある

やるべきこと

  • 相続人全員で遺産分割協議を行い、相続する人を決める
  • 戸籍謄本・印鑑証明書等の必要書類を収集する
  • 法務局で相続登記を申請する(または司法書士・弁護士に依頼する)
  • 登記完了後、市区町村の税務課にも連絡する

免責事項 / NOTE


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づくものであり、法改正等により内容が変更される場合があります。最新の制度運用や手続きは法務省・法務局等の案内でご確認ください。具体的なご状況については、弁護士・司法書士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

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