よくあるご相談:「実家と田舎の土地、別々に手続きが必要と知って途方に暮れました」
父親が亡くなり、都市部の自宅・地方の山林・別荘地の3つを相続することになったある方は、当初「相続登記は一度で終わるもの」と思っていたそうです。ところが調べてみると、それぞれ管轄登記所が異なるため申請を別々に行う必要があると分かり、戸惑ったといいます。
特に頭を悩ませたのが、戸籍謄本や印鑑証明書を何通ずつ用意すればよいのか、重複を減らす方法があるのかが分からなかった点でした。仕事の都合で平日に複数の登記所を回ることも難しく、どう段取りを組めばよいか途方に暮れたそうです。
結局、オンライン申請と郵送申請を組み合わせ、書面提出の場合に使える「原本還付」の仕組みを活用することで、書類準備の手間をぐっと抑えて進められたとのことでした。
地方出身で都市部に暮らしている方や、代々土地を引き継いできた家系では、複数の市町村に不動産が分散していることは珍しくありません。相続登記には法律上の申請義務と期限がありますので、早い段階で全体像と段取りを整理することが、後々の負担を大きく減らすことにつながります。
管轄の仕組み:申請先はどこになるの?
相続登記は、不動産の所在地を管轄する登記所(法務局・地方法務局・支局・出張所)に申請します。たとえ相続人が東京在住であっても、不動産が大阪にあれば大阪の管轄登記所への申請が必要です。市町村が異なれば管轄登記所も異なることが多く、複数市町村に不動産がある場合は申請先が複数になることがあります。
ただし、同一の登記所の管轄内に複数の不動産がある場合は、1件の申請書にまとめて申請できることもあります(まとめられるかどうかは、登記の目的・原因・対象不動産の組み合わせなどによって変わります)。隣接する市町村でも登記所の管轄が異なる場合があるため、法務局の「管轄のご案内」などで事前に確認することが大切です。
管轄を調べる際は、不動産の所在地(住居表示ではなく登記上の所在地)や地番・家屋番号が分かるとスムーズです。これらは固定資産税の課税明細書や登記事項証明書(登記簿謄本)で確認できます。
申請パターン別:あなたに合った段取りを選ぶ
複数市町村に不動産がある場合、申請方法は大きく3つに分かれます。
書面を窓口または郵送で提出
近くの登記所へ直接持参するか、遠方であれば郵送で提出する方法です。窓口では書類の形式面について案内を受けられる場合があり、別途「登記相談」を利用できることもあります(ただし窓口提出が申請内容の正確性を保証するわけではありません)。注意点は、登記所が複数になると移動や郵送の手配が増えることです。開庁時間や登記相談の実施時間には制限があるため、スケジュール管理が必要になります。
オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)
自宅からインターネットを通じて申請情報を送信する方法です。遠方の登記所への申請でも移動が不要で、納付も電子納付を利用できます。利用可能時間やメンテナンス停止の時間帯があるため、締め切りに近い申請では送信時刻と受付日の関係を事前に確認しておく必要があります。また、電子署名(電子証明書)の準備や申請用ソフトの操作に慣れることも必要です。
書面提出とオンライン申請の併用
近隣の登記所は書面提出、遠方はオンライン申請と組み合わせる方法です。はじめて相続登記に取り組む方が、近くの登記所で相談しながら遠方分はオンラインで進めたい場合に、現実的な選択肢となります。
どのパターンを選ぶ場合でも、「共通書類をどう回すか」が段取りの核心です。書面提出では「原本還付」の請求ができる場合があります(不動産登記規則55条)。原本と「原本と相違ない旨を記載した謄本(写し)」を一緒に提出し、調査完了後に原本の返却を受ける方法です。ただし、印鑑に関する証明書など原本還付の対象外となる書類もあるので注意が必要です。
複数の登記所に同時並行で申請するか、順番に申請するかによっても必要な書類の部数は変わります。個別の事情によって取り扱いが異なりますので、思い込みで判断せず、提出先の登記所に要件を確認するか、お近くの司法書士に相談するようにしてください。
登録免許税の計算と費用の最適化
登録免許税は申請方法・申請内容に応じて、収入印紙の貼付・現金納付(納付書)・電子納付などで納めます。複数の登記所に申請する場合は、原則として「申請書ごと」に算定してそれぞれ納付します。
相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税率は、原則として「不動産の価額×0.4%(1,000分の4)」です。課税標準の端数処理(評価額合計の1,000円未満切捨てなど)や税額の端数処理(100円未満切捨て)があるため、単純な計算とは一致しないことがあります。なお、要件を満たす場合には免税措置が適用されることもありますが、時限措置のため適用期限の確認が必要です。
固定資産税評価額(課税台帳価格)は固定資産評価証明書や課税明細書等で確認できますが、提出書類の扱いは申請内容や登記所の案内によって異なります。複数市町村に不動産がある場合、評価資料は所在地の市町村ごとに準備するのが一般的です(郵送で請求できる自治体もあります)。
よくある失敗と、それを防ぐための対策
case 01
申請漏れ
被相続人が所有していた不動産の全体像を把握しないまま一部だけ手続を進め、後から別の不動産が見つかるケースが最も多い失敗です。固定資産税の課税明細書を確認したり、市町村によっては「名寄帳」等を取得して見落としを防ぐことを検討しましょう。
case 02
管轄の確認ミス
隣接する市町村でも登記所の管轄が異なる場合があります。申請先を誤ると差し戻し・再提出の原因になります。複数の不動産をまとめて申請できるのは「同一登記所の管轄内で、かつ申請内容としてまとめられる場合」に限られるため、管轄ごと・申請内容ごとに整理することが大切です。
case 03
書類の記載ミス
遺産分割協議書等に不動産の表示を記載する際、地番・家屋番号・家屋の種類などを誤ると補正(修正)や作り直しが必要になります。登記事項証明書で登記上の表示を確認しながら正確に記載するよう心がけてください。
case 04
印鑑証明書の取り扱い
相続登記で使う印鑑証明書に「発行後3か月以内」といった有効期限が法令上定められているわけではありませんが、住所・氏名が現在の情報と一致しているかなど、提出書類との整合が取れない場合は補正や追加資料が必要になることがあります。なお、司法書士に相続登記を依頼して遺産分割協議書を作成する場合、古い印鑑証明書を用意していると、相続人全員に最新の印鑑証明書を取得しなおしていただくのが一般的です。
case 05
オンライン申請でのトラブル
添付ファイルの形式・容量が要件に合わない、電子証明書の有効期限が切れているといったトラブルがよくあります。送信前に要件を確認し、余裕を持って準備することが大切です。
司法書士に依頼する判断基準と費用の目安
複数市町村の相続登記を自分で進めるか司法書士に依頼するかは、時間とコストのバランスで判断することになります。司法書士に依頼する場合の報酬は、不動産の数や評価額・手続の複雑さ・登記所の数などによって幅があり、見積もりで確認するのが確実です。
司法書士に依頼する主なメリットは、必要書類の整理・申請書の作成・登記所とのやり取りをまとめて任せることでミスや差し戻しのリスクを低減できる点です。遠方の登記所が絡む場合でも、オンライン申請や郵送提出を組み合わせて対応できます。
自分で申請する場合は、登録免許税と書類取得費用が主な出費となります。ただし、書類の不備で補正や再提出が必要になると、結果的に時間と手間がかさむことがあります。
次のような状況では、司法書士への相談を検討されることをお勧めします。
- 不動産の数が多い、または申請先の登記所が複数に分かれる
- 仕事や家庭の事情で平日の手続きが難しい
- 相続人が多い・連絡調整が難しい・遺産分割の内容が複雑
- 相続関係(戸籍の追跡)が複雑で書類の追加取得が多くなりそう
まとめ:複数市町村の相続登記で押さえるべきポイント
複数市町村の相続登記でのポイント
- 不動産の全体像を把握する
固定資産税の課税明細書や名寄帳等で所有不動産をリストアップし、申請漏れを防ぎましょう。 - 管轄登記所を事前に確認する
法務局の案内で管轄を調べ、申請先を明確にします。同一登記所の管轄内であれば、申請内容次第でまとめて申請できる場合があります。 - 共通書類の「部数」と「回し方」を決める
同時並行か順番かで必要部数が変わります。書面提出では原本還付できる書類とできない書類がある点も踏まえて段取りを組みましょう。 - オンライン申請・郵送提出も選択肢に入れる
遠方の登記所がある場合は移動の負担を大幅に軽減できます。利用可能時間や提出方法の要件は事前に確認してください。 - 登録免許税は「申請書ごと」に整理して納付する
評価額をもとに税額を計算し、申請ごとに合算して納付します。端数処理や免税措置の有無にも注意が必要です。 - 複雑なケースは手戻りを多めに見積もる
相続関係が複雑・登記所が多い・書類が膨大なケースでは、手戻り防止の観点から段取りに余裕を持たせておくことをお勧めします。 - 申請期限(申請義務)を意識する
相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から原則3年以内に申請する義務があります。正当な理由なく違反すると10万円以下の過料の対象となり得ます。施行日(2024年4月1日)以前に始まった相続で未登記のものも対象となり、原則として2027年3月31日までの対応が必要です(取得を知った日が2024年4月以降の場合はその日から3年以内)。遺産分割がまとまらず期限が迫る場合は「相続人申告登記」による簡易な義務履行の制度も利用できます。
免責事項 / NOTE
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づくものであり、法改正等により内容が変更される場合があります。最新の制度運用や手続きは法務省・法務局等の案内でご確認ください。具体的なご状況については、弁護士・司法書士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
